マンション管理規約の常識を疑え──二重床の仕上げ材にLL45が“不要な理由”

『マンションの管理規約における床フローリング工事には遮音等級LL45以上の床材を使用すること』
この一文は、マンションの管理規約によく記載されています。
その他、同じような例としては以下のような文章もよく見受けられます。
例1
専有部分の床仕上げ材を変更する場合は、管理組合が定める遮音性能基準
(床衝撃音遮音性能LL-45以上)を満たす材料を使用し、施工しなければならない。
例2
(床材の変更)
第◯条 床材(フローリング等)を変更する場合は、管理組合の承認を必要とする。
2 承認を申請する場合は、床衝撃音遮音性能がLL-45以上であることを証明する資料
(試験成績書等)を添付しなければならない。
3 上記基準を満たさない工事は認めない。
例3
専有部分内の床仕上材をフローリングその他の材料に変更しようとする場合は、
当該材料がJIS規格等に基づく軽量床衝撃音遮音等級LL-45以上の性能を有することを
確認したうえで、管理組合に事前申請し、承認を得るものとする。
例4
床材の変更に際しては、管理組合指定の遮音性能(LL-45以上)を満たす製品を使用すること。
工事申請時には、製品の遮音性能試験結果(メーカー発行の試験成績書)の写しを添付すること。
どの例も、仕上げ材には遮音等級LL45以上の床材を使用することになっています。
ただ、これは不要な場合もたくさんあるんです。
多くのマンションでは、リノベーションやリフォーム時に「LL45以上の床材を使用すること」が管理規約や工事申請書に明記されています。しかし、実際の建築音響の原理から考えると、二重床構造のマンションで仕上げ材に「LL45性能」を求める必要性はほとんどありません。
それにもかかわらず、全国のマンション管理規約は“床材そのものにLL45性能を義務付ける”という矛盾した表現を使い続けています。本記事では、この問題の背景を建築の専門的視点から読み解き、施主が正しい判断をできるよう解説します。
先ずは、マンションにおける主な床構造を紹介いたします。
二重床構造と直貼り工法の木質フローリングです。
西高東低で直貼りフローリングが多いと言われています。
まずは、乾式二重床と直貼り木質フローリングの説明から…
乾式二重床
乾式二重床は、上部面材を防振ゴムを有する支持脚等で浮かした構造になっており。その多くはベースとなるパーティクルボードの上に仕上げ材となるフローリング等が施工される。また、居室への踏み込みや家具などの設置による沈み込み値作の為に。室四週の壁際の仕様は、やや硬いゴム支持脚や在来木質根太等が使われることが多い。さらに壁との取り合い部分には巾木が取り付けられる。軽量点・重量床衝撃音レベル・低減量が比較的大きい乾式二重床は、 面材の中間層に下地合板やアスファルト系またはゴム系の重い製芯マットを追加した仕様のものが多い。 また、床下空間にグラスールなどの吸音材が挿入されたものもある。
軽量床衝撃音レベル低減量に影響を及ぼす主な要因として、 室四隅、壁際部の防振ゴムの使用、幅木の種類と取り付け方法、 隙間の有無、また室四周を除く一般部の防振ゴムの硬度、形状、断面や突起の有無、 制振マットの有無、吸音材の有無、床仕上げ、高さなどが挙げられる。また、重量衝撃音レベル低減量に関しては、幅木とフローリングの隙間による上部面材とコンクリートスラブ間の空気層の空気抜けの程度、 上部面材の面密度と剛性が影響要因として挙げられる。 床仕上げ材として直張り木質フローリング、カーペット、塩ビシート、畳、薄畳などを施工した場合の 軽量衝撃音レベル低減量は、仕上げ材の低減性能に大きく左右される。
直張り木質フローリング
直張り木質フローリングは、直床の下地のクッション層からなる、木質部の基材には合板やMDF(中密度繊維板)が使われることが多いが、それ自体は材料が硬すぎるため鋸溝加工を施し柔軟化することで、軽量床衝撃音レベル低減量が大きくなる。
上部の木質部分は、柔らかい方が軽領主化衝撃音レベル低減量は大きくなるが、歩行感の悪化や床鳴りを発生させることもある。株のクッション層は、柔らかさが適度な材料であれば熱いほど軽量床衝撃音レベル低減量は大きくなる。ただし、この場合も歩行感とのバランスが重要となる。また、クッション層の厚さが十分であっても材質が硬い場合には、軽量床衝撃音レベル低減量が極端に小さくなることもあるので注意を要する。
| 遮音等級 | 軽量音(LL)椅子・物の落下音等 | 重量音(LH)足音・走り回る音等 |
|---|---|---|
| L-35 | 通常では聞こえない | ほとんど聞こえない |
| L-40 | ほとんど聞こえない | かすかに聞こえる |
| L-45 | 小さく聞こえる | 意識するほどではない |
| L-50 | 聞こえる | 小さく聞こえる |
| L-55 | 発生音が気になる | 聞こえる |
| L-60 | 発生音がかなり気になる | よく聞こえる |
| 項目 | 説明 | LL-40 | LL-45 | LL-50 | LL-55 | LL-60 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 床衝撃音 | ひとの歩き回り/飛びはねなど | かすかに聞こえる・遠くから聞こえる感じ | 聞こえるが意識することはあまりない | 小さく聞こえる | 聞こえる | かなり聞こえる |
| 床衝撃音 | いすの移動音/おもちゃの落下音など | ほとんど聞こえない | 小さく聞こえる | 聞こえる | 発生音が気になる | かなり気になる |
| 生活実感・プライバシー | 上階の生活気配 | 上階の物音がかすかにする・気になることは少ない | 生活の多少を感じる・スプーンを落とすとわずかに聞こえる | 生活状況がある程度わかる・話し声が聞こえる | 生活行為や話し声が分かる・椅子移動音が聞こえる | かなり明確に聞こえる |
| 項目 | 説明 | LH-30 | LH-35 | LH-40 | LH-45 | LH-50 | LH-55 | LH-60 | LH-65 | LH-70 | LH-75 | LH-80 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 床衝撃音 | 子供が飛び跳ねる音/重い物音 | 通常では聞こえない | ほとんど聞こえない | 遠くから聞こえる | 聞こえても意識しない | 小さく聞こえる | 聞こえる | 良く聞こえる | 発生音がかなり聞こえる | うるさい | かなりうるさい | うるさくて我慢できない |
1. 結論:二重床なら、仕上げ材のLL45性能はほとんど不要です
先に結論を言うと、マンションの二重床構造において遮音性能(LL値)を決めているのは「床材」ではなく「床構造」です。二重床の支持脚、防振ゴム、床下空気層、スラブ厚、床パネルの質量といった要素が遮音性能のほぼ全てを左右します。
したがって、本来は「LL45の床材を使用すること」という管理規約がなくても、二重床そのものがLL45を十分に確保しているケースが大半です。
2. 技術的根拠:LL値は“床材単体”ではなく“床全体”で決まる
(1)二重床は「遮音システム」である
二重床の遮音性能は、以下の要素の組み合わせで成立します:
- スラブ厚(180mm〜220mmなど)
- 防振ゴム付き支持脚
- 床下空気層の厚み
- 床パネル・捨て貼り合板の質量
- 構造全体の固有振動特性
これらが衝撃エネルギーを吸収・分散し、LL45相当の性能を担保しています。ここに仕上げ材が貢献する割合は極端に小さいのが現実です。
(2)LL45は「床構造の性能」であり、材料の性能ではない
しばしば誤解されていますが、LL45とは「材料の性能」ではなく「床構造全体の性能ランク」です。LL値の測定は、仕上げ材単体ではなく、床全体を一体のシステムとして評価します。
つまり、仕上げ材に“LL45性能を持たせる”という表現自体が技術的には正確ではありません。
(3)直貼りと二重床は別物である
直貼り工法では、仕上げ材の裏面クッション材や厚みによって遮音性能が大きく変わるため、「材料選びが遮音性能を左右する」という考え方が正しい場面があります。
しかし、二重床では全く別の物理が働くため、この直貼りの考え方を二重床にそのまま持ち込むと誤解が生まれます。これが「仕上げ材にもLL45を求めるべきだ」という不適切なルールに繋がっています。
3. それでも管理規約が“LL45床材”を求める理由(制度の矛盾)
(1)管理会社がリスク回避を最優先するから
音のクレームは管理会社にとって最も厄介な相談です。建築音響の知識が乏しい管理会社は、「LL45と書いておけば安心」という理由から、一律でLL45を義務付ける表現を採用しがちです。
(2)理事会も建築の専門家ではない
多くの理事会メンバーは一般居住者であり、床衝撃音の測定方法やスラブ厚の影響を理解していません。そのため、「とりあえず LL45 を求めておけば安全だろう」という曖昧な判断で規約が運用されます。
(3)規約が改正されないまま20年以上残り続ける
最も大きな問題はこれです。マンションの管理規約は、竣工当初に作られた古い知識をベースにしており、その後の建築基準・音響技術の進歩が反映されないまま、20年、30年と使われ続けています。
遮音設計がまったく違う時代の「古い常識」が、現在のマンションにもそのまま適用されているのが現実です。
(4)管理組合は「万が一」だけを恐れている
音に関するトラブルが起きた場合、原因調査・立ち会い・理事会対応は多大な労力が必要です。そのため、管理組合は技術的妥当性よりも「クレーム回避」を優先し、安全側に倒した規約を温存します。
4. リフォーム現場の実態:結局ほとんどの施主はLL45を選ぶ
技術的には不要である場面が多いにも関わらず、現実にはほとんどの施主が「LL45相当の床材」を選びます。
- 管理規約をスムーズに通したい
- 管理会社との無用なトラブルを避けたい
- “LL45”と書いてあるほうが安心感がある
つまり、性能ではなく「制度上の理由」で選ばれているのです。
5. 専門家としての推奨:どう判断すべきか?
(1)技術的事実を理解する
二重床の遮音性能は、床材ではなく床構造が担っています。これは建築音響の基本原則です。
(2)制度と現実の運用も理解する
管理規約がLL45を要求している限り、技術的には不要でも、承認を得るためにはLL45床材を使用する方が総合的に見て合理的です。
(3)“正しい知識を持って選ぶ”ことが最も重要
「本来不要である」
「でも制度上は求められる」
「仕上げ材のLL45は安心材料として使われている」
この3つを理解した上で選択することが、最もストレスの少ないリフォーム計画につながります。
6. まとめ:仕上げ材LL45は“制度の都合で生まれた常識”
二重床の遮音性能は、床材ではなく“床全体の構造”によって決まります。仕上げ材のLL45は本来必要ない場面が多いにも関わらず、管理規約が改正されないまま過去の基準が残り続けたことで、「LL45の床材を使うのが当たり前」という文化が形成されました。
しかし正しい知識を持てば、リフォームで余分な不安や誤解を抱えずに済みます。制度的な要件と技術的な実態を分けて考えることで、施主にとって最適な床材選びができるようになります。
本当に必要なのは「LL45の床材」ではなく、「正しい理解」です。
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