森は本当にCO₂を吸っているのか、考えてみた話

あくまでも個人的な考えです。

【1. 日本の森林とCO₂固定の実態】

  • 日本の森林面積:約2,500万ha強(国土の約66%)
  • うち適切に管理されCO₂を吸収・固定できているのは約360〜410万ha(約15%程度)
  • 天然林や放置林は高齢化・荒廃により吸収量が減少、土壌呼吸や倒木分解などにより、吸収量を上回るCO₂排出が起こる可能性がある
    → “全ての森林がCO₂を吸収している”わけではない
    → 本当に機能しているのは“ごく一部の管理された人工林”のみ
  • 約15%の森林がいくら頑張っても、全体のCO₂固定には限界がある
  • 日本中で森林の高齢化が進行しており、“森の老化”は全国的な問題
    → 若返り(更新)や適切な伐採・利用が進まなければ、吸収源ではなく排出源へと転じる恐れがある

しかし現実には、それは極めて困難である:

  • 7割が私有林で、所有者不明・放棄林が全国に拡大
  • 伐採・搬出コストが高にも拘らず、木材価格が安いため採算が合わない
  • 林業従事者の高齢化・人手不足で手が回らない
  • 間伐に対する補助金制度は「伐ること」を対象としており、更新や管理までは含まれない

→ “若返らせるべき”と言うのは簡単だが、現場ではほとんど実現不能
→ よって、既に存在する高齢樹をどう活かし、どう引き継ぐかがCO₂固定の現実解となる

 


【2. 高齢樹は炭素を固定する“巨大貯蔵庫”】

  • 高齢樹(50年以上の樹木。研究によっては100年以上を指すこともある)は若い木よりも炭素蓄積量が圧倒的に多い
  • 1本で数倍〜数十倍の炭素を長期間にわたって固定し続ける
  • 成長スピードが遅くても、“総固定量”では高齢樹が優れる
  • 若い木が成長期に吸収速度が速いという見方もあるが、総蓄積量では高齢樹が優れる
  • 米研究:最大サイズ1%の木が森林炭素の50%以上を蓄積
    → 長寿命・非伐採でこそ高齢樹の炭素固定力が発揮される

 


【3. 木材利用=CO₂固定化?】

  • 木は成長中にCO₂を吸収するが、使い方によっては再び排出
  • 合板や集成材は製造時にCO₂を多く排出
  • 単なる利用ではなく「どう使うか」が重要

 


【4. 合板・集成材はCO₂排出源にもなる】

  • 接着剤(合成樹脂)は石油由来で高CO₂排出
  • 乾燥炉やプレス機などのエネルギーも多消費
  • 廃棄時に焼却すればさらにCO₂排出
    → 製造・廃棄工程を含めたライフサイクルで見ると、環境負荷が高くなる場合がある

 


【5. CO₂固定と認められる条件】

  • 長期間使用(数十年以上)が前提
  • 鉄やコンクリートの代替材として使用
  • 廃棄時は燃やさず、再利用・再加工
    → これらを満たして初めて“固定化”と評価される

 


【6. 本当にCO₂を固定する使い方】

  • 接着剤を使わない無垢材が理想
  • 低温・自然乾燥で製造時の排出を抑制
  • 内装・構造材として数十年使う
  • 廃棄せず“引き継がれる材”が理想

 


【7. パルプ・チップはCO₂固定には不向きな用途】

  • パルプやチップは短命利用が中心(数ヶ月〜数年)
  • 製紙やMDFなどは製造時・廃棄時にCO₂を排出
  • バイオマス燃料は“燃やす=吸収分を一気に吐き出す”
    → CO₂固定というより“循環”用途。固定には向かない

 使用例:トイレットペーパー

  • 人間が最も使用する紙製品はトイレットペーパー
  • 同時に、木材から作られる“最も大量に使われる木製品”の一つでもある
  • しかしその寿命は、わずか数秒〜数分であり、吸収された炭素はすぐに大気中へ戻る

→ 木を伐って“消耗品”に使うことは、「炭素の固定」にはつながらない
→ 木材の使い道によっては、むしろ環境負荷を助長する可能性もある

 


【8. 歩留まりから見るCO₂固定効率】

  • 無垢材:歩留まり50%前後。CO₂固定に最適
  • 集成材:歩留まり30%台+接着剤由来のCO₂排出
  • 合板:歩留まり50〜75%。短命用途が多い
    → 歩留まりは製材方法や樹種によって異なるため、目安として提示

 


【9. CO₂取引と木材利用の誤解】

  • カーボンクレジット(排出権)制度とは:
    吸収・削減したCO₂を「数値化」して売買する制度
  • カーボンオフセットとは:
    他者の吸収・削減をお金で“相殺”する仕組み(航空会社や企業が活用)

 しかし現実は…

  • 木を植えただけでクレジット化
  • 短命用途でも“固定”と見なす誤認
  • 吸収後に焼却してもクレジット制度上は吸収量として計上されるが、実際には排出されているケースもある
  • 接着剤を使用する集成材や合板が多く、実際には接着剤由来のCO₂を大量に排出している
  • 二重カウントや過大申告が国際的に問題視

 真の炭素固定とは?

  • 植える・吸う・伐る・長く使う・燃やさない
  • 数字ではなく“実物”として残す
  • 長寿命材・無垢材こそクレジット制度にふさわしい

 


【10. 結論:木材利用は“質と設計”が全て】

  • 木材は成長過程でCO₂を吸収するが、焼却時に再放出される
  • 接着剤を多用した材では環境負荷が高くなる可能性がある
  • 無垢材 × 長期利用 × 非焼却 がCO₂固定の王道

 

樹木におけるCO2固定化については、私がこの業界でお世話になったころからずいぶん変わった気がする。私が年を重ねると同時に樹木も同じだけ年を重ねることになります。最近、私が思うところはこんな感じになりました。まぁ難しいよね。

木材コンシェルジュ

執筆・監修者情報:前田英樹(株式会社五感 代表取締役)

前田英樹氏は、無垢フローリングおよび剣道場床の専門家です。吉野材専門問屋や木材小売業での経験を経て、2008年に株式会社五感を設立。東京・新木場で無垢フローリング専門店「木魂」を運営し、ショールーム「ゆらぎ」では多種多様な無垢材を提供しています。

また、「剣道場床建築工房」を運営し、剣道場の床設計・施工を専門に手がけています。剣道五段の有段者として、国産スギ材を使用した剣道場専用床材を開発し、剣道に適した「弾性剣道場床」を推奨。足腰の負担を軽減し、剣士のパフォーマンス向上と安全性の確保を重視した床づくりを行っています。全国の大学や道場で採用され、高い評価を得ています。

FSCおよびPEFC/SGECのCoC認証を取得し、木材のトレーサビリティを重視。武道学会賛助会員。日本剣道振興協会賛助会員。各種メディアへの寄稿や講演も行い、業界内で信頼されています。

株式会社五感 東京都江東区新木場1-6-13 木のくに屋ビル4F 公式サイト
無垢フローリング専門店木魂: https://www.muku-flooring.jp/
剣道場床建築工房: https://kendoujou.com/

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