体育科教育2015年10月号 音が決め手のモノ
おもしろい記事が載っています。
剣道場には様々な音や声が入り交ります。
練習の始まりを示す太鼓の音や、無数の竹刀が交わり合う音、
さらには、「ター!」「ウォー!」といった威勢のよいかけ声、
打突の際の力強い踏込によって床板の音も響き渡ります。
昔ながらの剣道場には、こうした音響を文字通り
縁の下で支えるモノが床下に備え付けられています。
その正体は甕(かめ)。
現在でも、伝統的なスタイルの剣道場の床下には、
空の甕が口を上にして置かれいます。
踏み込んだ時の音は、
こうした甕の作用によって道場に響き渡る仕掛けになっています。
床下の甕による音響効果は、
もともとは能舞台の床の響きをよくするためのもので、
舞台大工たちの秘技ともされていました。
もともと能舞台は野外で行われていたために、
甕は余計な音を吸収し、
笛や太鼓、謡の声とともに足で踏む拍子を
効果的に共鳴させる音響効果として施されていました。
研究者によると、竹刀打込稽古法の普及とともに
そうした音響効果も導入されたと推測されています。
能と比較してみると、剣道での竹刀がぶつかる音を和楽器に、
かけ声は歌、足の踏込は足拍子と、
それぞれが能舞台での音と対応していることがわかります。
また、大正元年に落成した警視庁の演舞場にも
甕がしっかりと埋められていたそうです。
ひょっとしたら、辛く厳しい修行の中でも、
踏み込みの音を道場に響き渡らせることによって
気持ちよく修行に打ち込む、
そのような意図も込められていたのかもしれません。