剣道場床の除菌について

剣道場床の除菌

昨今の新型コロナウィルス対策として
稽古前に剣道場床の除菌を求められております。

剣道場床の除菌を行うときの注意点としては以下となります。

・剣道場床の素材(樹種)や仕上げの確認
剣道場床には、様々な床材(フローリング)が使用されています。
樹種としては以下のような床材(フローリング)が多いと思います。
・杉(スギ)
・桧(ヒノキ)
・松(マツ)
・樺(カバ)
・桜(サクラ)
また、樹種が確認出来たら無垢材か集成材か合板かを確認します。

・剣道場床の表面仕上げの確認
剣道場床の除菌を行うには、樹種の確認も必要ですが
床表面の仕上げが最も重要です。
剣道場床には、以下のような床仕上げがあります。
・無塗装(何も塗装していない)
・オイル塗装
・ウレタン塗装

※剣道場床の樹種だけを確認して、除菌剤を選ぶのは間違いです。
除菌剤が付着する場所はあくまでも床表面です。
必ず床表面の仕上げがどのようになっているのかを確認します。

 

・除菌剤の確認
対象の剣道場床の樹種と表面仕上げを確認したのちに
除菌剤を選定します。
性質で大きく3つに分けられます。
・アルカリ性
・酸性
・中性

アルカリ性の水溶液は、
エアコンの清掃などの清掃などに使用されています。
アルカリ性のph値にもよると思いますが強すぎると
剣道場床の汚れが分解されてまだら模様になる可能性があります。
水溶液を床に垂らすと黒く変色する場合もあるので注意が必要です。

酸性の水溶液は、トイレやお風呂の洗浄によく使われています。
漂白作用があり、木質部に使用する際は注意が必要です。
水で薄めて使用するのも噴霧するのも避けた方が良いでしょう。

中性の代表的な水溶液はph7の純水です。
重要文化財などの洗い作業は、純水と刷毛でただただ洗うだけです。
ただし、水道水はカルキの影響でアルカリ性に
振れていることもあるので確認が必要です。

そうすると中性の除菌剤がどの表面仕上げに対しても
ある程度安心して使用できるのだと思います。

ウレタン塗装に関しては、アルカリ性や酸性に対しても
ある程度は対応しているかと思いますが
塗装して何年もたって劣化していたり剥がれたりしている
箇所があると変色や更なる塗膜の剥離などが起こるかもしれません。

界面活性剤入りの洗剤が新型コロナウィルスに対して有効という
一説もあるようですが、剣道場床の除菌に際しては
界面活性剤入りの洗剤は色変わりの原因になるので
使用しないでください。

中性で無臭の除菌剤も販売されています。
中性の除菌剤としては
二酸化塩素を使用した商品が多いようです。
二酸化塩素水溶液については、新型コロナウィルスに対して
効果が証明できていなかったようですが最近になって
効果があるという研究結果が出始めているようです。

新型コロナウイルス対策の二酸化塩素を使用した
除菌商品については、続報も日々更新されているようなので
ご確認いただければと思います。

何れにせよ、現段階では剣道場床の木材にとっては
酸性、アルカリ性が不向きなことが確かな以上、
中性溶液での除菌を行うことが最良という結論になります。

そこで表面仕上げの異なる杉床材(ウレタン塗装、オイル塗装、無塗装)に
二酸化塩素水溶液のスプレーを噴霧して比較してみました。

 

左から
・杉無垢材  ウレタン塗装
・杉集成材  オイル塗装
・杉集成材  無塗装

 

各床材に二酸化塩素水溶液をスプレーで噴霧

 

5分後に拭きあげ

杉ウレタン塗装

 

杉集成材 オイル塗装

 

杉集成材 無塗装

 

各床仕上げ共に変色などは無かったです。

どんな除菌剤を使用しても自己責任になります。
道場の隅っこの床などでしっかり試してから全面に使用してください。

現時点で求められていることは「除菌を行う」ことなので
剣道場床に二酸化塩素水溶液をスプレーで噴霧する方法は
手軽で現実的ではないかと思います。

状況は日々変化し、各道場の床状況も全く同じだとは言えません。
今後、さらに良い除菌方法が出てくるかもしれません。
また新たな情報が判明しましたらこちらでもご紹介させていただきます。

 

木造校舎および事務所の床の鉛直荷重に対する性能と歩行振動に対する感覚評価との関係(第2報)

歩行振動の感覚評価による木造大スパン床の設計目標提案の可能性

 

著者 :  杉本 健一, 中村 昇, 佐野 泰之, 藤野 栄一, 新藤 智, 鎌田 貴久, 宇京 斉一郎, 権田 将也

 

Relationship between the Vertical Load Properties of Floorsand Human Sensory Evaluations of Walking Vibration inWooden Schools and Offices II. †

Possibility of a tentative design target for large-span wooden floors according to human sensory evaluations of walking vibration *1
Ken-ichi SUGIMOTO*2, 3 , Noboru NAKAMURA*3 , Yasuyuki SANO*4 ,
Eiichi FUJINO*5 , Satoshi SHINDO*6 , Takahisa KAMADA*7 ,
Seiichiro UKYO*2  and Masaya GONDA*8

  Walking is an essential part of life or work and causes floor vibrations. Recently, the need for large-scale wooden buildings has been increasing. However, there is no guide to design for floor vibrations caused by walking of large-span wooden floors. Therefore we considered the relationship between ver-tical vibration and properties of wooden school and office floors and human sensory evaluation. We found that the percentage of persons indicating perception of vibration, expecting those who answered unnoticed, was larger than the perception probability indicated in Guideline for the evaluation of habit-ability to building vibration published by Architectural Institute of Japan (AIJ). When the floor re-sponse acceleration was over 4 cm/s 2 , the percentage of persons who perceived the vibration was 100%. At the next step, we considered the relationship between the weighted acceleration level according to frequencies and the ratio of deflections including creep to spans, calculated by the experimental stiff-ness. Finally we suggest a tentative design target for large-span wooden floor as follows. In order to get the weighted acceleration level to be 65 dB, we must set the ratio of beam deflections including creep to span at less than 1/500 according to Building Standards Law and at less than 1/600 according to Standard for Structural Design of Timber Structures by AIJ. We also must set the floor natural fre-quency to be over 12 Hz. These values are available under the condition that the natural frequency of wooden floors is from 9.5 Hz to 12.5 Hz.

Keywords :   large-span wooden floor, human sensory evaluation, dynamic properties, weighted ac-celeration level, tentative design target.

 

Report I : This journal 62, 101-107 (2016).
*1   Received June 21, 2016 ; accepted November 23, 2016. 本報の一部は,第66回日本木材学会大会(2016年3月,名古屋)において発表した。
*2   森林総合研究所 Forestry and Forest Products Research Institute, Tsukuba 305-8687, Japan
*3   秋田県立大学木材高度加工研究所 Institute of Wood Technology, Akita Prefectural University, Noshiro 016-0876, Japan
*4   愛知工業大学工学部 Aichi Institute of Technology, Department of Architecture, Toyota 470-0392, Japan
*5   職業能力開発総合大学校 Polytechnic University, Kodaira 187-0035, Japan
*6   法政大学デザイン工学部 Hosei University, Faculty of Engineering and Design, Tokyo 102-8160, Japan
*7   日本大学生産工学部 Nihon University, College of Industrial Technology, Narashino 275-8575, Japan
*8   三井ホーム株式会社 Mitsui Home Co.,Ltd., Tokyo 163-0453, Japan
Corresponding author : K. Sugimoto (sugimoto@ffpri.affrc.go.jp

 

 

歩行を加振源とする床の鉛直振動と感覚評価との関係の検討を行い,床の応答加速度と知覚確率,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルとアンケート調査結果および床のたわみ,固有振動数との関係を調べた。床の応答加速度の値3~4cm/s2を上回ると,アンケートで振動を「感じない」と答えた人以外の割合が100%,また,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルが65dBを下回ると,歩行振動を許容できる人の割合が65%以上となった。本研究では歩行振動に対する木造大スパン床の設計目標を提案できる可能性が示された。床の設計目標(仮)を65dBとすれば,変形増大係数あるいはクリープ変形係数を考慮したスパンに対するたわみの比を建築基準法で1/500,木質構造設計規準で1/600とし,1次の固有振動数を12Hzとすればよい。ただし,床の1次固有振動数は9.5~12.5Hzの範囲とする。

 

1.緒言
第1報1では,実際の建築物である小学校と事務所での床の鉛直荷重に対する性能の測定を基に,床の応答加速度,床のたわみ,固有振動数と人間の感覚評価との関係について検討することを目的として,木造大スパン床における静的性状および振動性状について報告した。本報では,人間が生活や仕事などの活動をするうえで必要不可欠な動作である歩行を加振源とする床の鉛直振動と感覚評価との関係について検討した。これまで歩行により発生する振動と人間の感覚評価との関係に関する研究2は多いが,振動レベルや振動加速度レベル,変位振幅,応答加速度などの物理量と,心理学的尺度あるいは知覚率などの評価との関係について検討しているものが大半である。木造に着目すると住宅規模の研究が多い3が,大スパン床に関する研究では横山らの研究4-6がある。文献4,5では,モデル床を用いて複数歩連続した歩行時に発生する振動の性能値について検討を行い,剛性の比較的低い床では横山らの提唱する評価値であるSVI(2)が適用でき,剛性の比較的高い床ではSVI(2)が適用できず,日本建築学会の『建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説』7のV曲線に基づいて振動数補正を施した補正振動加速度レベルおよび振動レベルの最大値が心理学的尺度とよい対応を示したことを明らかにした。また文献6では,在来軸組構法大スパン床の歩行振動の評価と固有振動数および剛性の関係について検討し,一次固有振動数と床中央に0.98kN(100kgf)載荷した時のたわみ量がわかれば,歩行振動の評価を概略推定可能であることを示している。しかしながら,床を設計する際に必要な梁の剛性や床の固有振動数を具体的にどう設計したらよいかについては示されていない。具体的には,実建物の床を対象に,歩行時の床の応答加速度について1/3オクターブバンド分析を行い,日本建築学会の『建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説』7に示される知覚確率を求めるとともに,アンケート調査を行った。これらの結果を基に,床の応答加速度と知覚確率,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルとアンケート調査結果および第1報1で算出した床のたわみ,固有振動数との関係を調べ,最終的には鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルを床のたわみと固有振動数の設計に落とし込むことを目標とした。

 

2.対象とした小学校および事務所の概要
対象とした小学校および事務所の概要をTable1に示す。詳細については第1報1)をご覧いただきたい。A~Dは小学校であり,E,Fは事務所である。小学校はすべて軸組工法による木造建物で,D小学校のみ2階床梁に合わせ梁を用いている。また,事務所は枠組壁工法による木造建物で,平行弦トラス(以下,トラス)を2階床梁として用いている。校舎の基本的な床構造は同じであり,A,B,CおよびD小学校の測定対象とした床の平面形状は,それぞれ9100mm×7280mm,9100mm×7280mm,8181mm×7272mm,9090mm×8181mmである。床梁の間隔はA,Bでは1820mm,C,Dでは1818mmであり,床断面は構造用合板を下地に用い,単層フローリングを仕上げに用いている。EおよびF事務所の測定対象とした床の平面形状は,それぞれ12740mm×9100m,19880mm×7210mmである。E事務所のトラスはピッチ455mmで,床はOAフロアであり,仕上げ材にはタイルカーペットが使われている。一方,F事務所のトラスは455mmピッチで,床にはシンダーコンクリート(厚さ38mm)が打設してあり,仕上げ材にはビニールタイルが使われている。

 

3.歩行実験およびアンケート調査
小学校の床については,体重617Nの成人男性1名が歩行し,床の応答加速度をサンプリング周波数1200Hzで測定した。Fig.1にはA小学校の床における歩行および加速度計の位置を示した。同図に示すように,A小学校では室中央の梁上(W1),梁と梁との間(W2)を梁間方向に歩いた。Fig.2にはB小学校の床における歩行および加速度計の位置を示した。B小学校では室中央に梁が存在しないため,室中央の梁と梁との間(W3)のみ梁間方向に歩行した。C,D小学校における歩行および加速度計の位置はA小学校と同じであり,W1およびW2を梁間方向に歩行した。
事務所の床については,体重647Nの成人男性1名が歩行し,床の応答加速度を小学校と同じサンプリング周波数で測定した。Fig.3にはE事務所の床における歩行および加速度計の位置を示した。同図に示すように,梁上(W4),梁と梁との間(W5)および桁行方向(W6)に歩いた。F事務所では,歩行および加速度計の位置はE事務所と同じである。なお,加速度計にはリオン株式会社製のPV-83CおよびPV-83A,振動レベル計には同社製のVM-51およびVM-53を用いた。
小学校ではいずれの歩行も3往復したが,事務所では片道だけの歩行で,加速度計ごとに歩行に対する応答加速度を測定するとともに,その歩行に対するアンケート調査を行った。A,B小学校およびE事務所におけるアンケート回答者はFig.1~3の△印で示すように,歩行の動線から比較的離れた任意の位置で回答した。C,D小学校およびF事務所におけるアンケート回答者も,同様に歩行の動線から比較的離れた任意の位置で回答した。
アンケート調査は,8~10名の男性が,歩行者の歩行による振動をどう受け止めたかを,2種類の尺度で評価した。一つは,1)感じない,2)全く気にならない,3)それほど気にならない,4)多少気になる,5)だいぶ気になる,6)非常に気になる,の6段階であり,本報では「気になり尺度」と呼ぶ。もう一つは,1)感じない,2)我慢できる,3)どちらかといえば我慢できる,4)どちらともいえない,5)どちらかといえば我慢できない,6)我慢できない,の6段階であり,「我慢尺度」と呼ぶ。

 

4.解析の手順
Fig.4に例として,D小学校の床におけるW1歩行時の片道の加速度計P1およびP3の応答加速度波形を示した。歩行の位置から離れると,応答加速度が小さくなっていることがわかる。人の歩行によって建築物の床に生ずる鉛直振動を評価するために,次のような解析を行った。文献7に示されているように,1)加速度計ごとに測定した片道の歩行に対する応答加速度について,時定数10msで1/3オクターブバンド分析を行い,各バンドの最大値を求め,2)例えば3往復の場合は往復あわせて計6回の最大値の平均値を求め,3)最大値の平均値を1/3オクターブバンド中心周波数に対してプロットした。例として,Fig.5にD小学校におけるW1歩行時の加速度計P1およびP3の1/3オクターブバンド中心周波数と,応答加速度の最大値の平均値との関係を示した。同図にはV-10~V-90の曲線が示されているが,これは性能評価曲線7)と呼ばれ,知覚確率を表している。例えば周波数10Hzのとき,応答加速度が6cm/s2であるならば,このプロットはV-90の性能評価曲線上にあり,90%の人が知覚することを表している。次に,Fig.5に示された各プロットに対して文献7)に従い知覚確率を求め,さらに,いわゆる接線法によって,それらのうちの最大値Ppmaxを算出した。例えばFig.5のP1の場合には1/3オクターブバンド中心周波数12.5Hzの知覚確率が最大となりPpmaxは93.4%と算出され,P3の場合も1/3オクターブバンド中心周波数12.5Hzの知覚確率が最大となりPpmaxは66.5%と算出される。これらの知覚確率が人の歩行によって建築物の床に生ずる鉛直振動の評価値になる。
Fig.6に例として,C小学校のW1歩行時のアンケート結果を示す。アンケートの分析では,知覚確率との対応をみるため「気になり尺度」および「我慢尺度」における1)感じない,以外の割合を,また歩行による振動を許容できる割合として「気になり尺度」および「我慢尺度」における1)+2)+3)の割合を求めた。

5.結果と考察
本報では,歩行振動を加振源とした床の鉛直方向の性能を示す指標を応答加速度とした。その理由として,人間は平衡感覚器官で加速度を受容し,神経回路によって脳に伝達され,脳で振動に対する判断が下されること8,文献7にあるように,居住性能の評価指標として加速度を用いて,鉛直振動に対する評価を行っているからである。
B以外の小学校では,Fig.1に示すようにアンケート回答者はW1やW2からは少し遠い位置にいるため,アンケート調査の集計結果と床の応答加速度の関係をみるために,解析する加速度としては,加速度計のP2およびP2で得られた加速度とした。一方,B小学校では,Fig.2に示すようにW3に近いアンケート回答者もいるため,P1~P4で得られた加速度を解析の対象とした。EおよびF事務所では,加速度計の位置とアンケート回答者の位置を考慮して,解析する加速度をすべての加速度計の値とした。

5.1応答加速度と知覚確率およびアンケート調査との関係
まず,今回計測した木造建物の床では,応答加速度は10cm/s2以下の範囲に分布しており,文献7に示されるRC造やS造,SRC造の床の応答加速度とそれほど変わりがなく,特に木造床の応答加度が大きいということではなかったことを断っておく。解析対象とした加速度計ごとに,4.で示した解析手順,いわゆる接線法にしたがい知覚確率の最大値Ppmaxiを求め,Ppmaxiに対応する応答加速度Ariを求めた。例えばFig.5のP1の場合には1/3オクターブバンド中心周波数12.5Hzのときの知覚確率がPpmaxiとなり,これに対応する応答加速度Ariは9.02cm/s2,P3の場合も1/3オクターブバンド中心周波数12.5Hzのときの知覚確率がPpmaxiとなり,これに対応する応答加速度Ariは4.22cm/s2となる。さらに加速度計ごとのPpmaxiの平均値Ppav,および加速度計ごとのAriの平均値Aravを算出した。Fig.7にAravとPpavとの関係について▲で示し,Aravと「1)感じない」と答えた人以外の割合,換言すれば「感じる」と考えられる人の割合との関係について●で示した。これより,同じ加速度に対し,知覚確率よりもアンケート調査による「感じる」と応えた人の割合の方が多いことが分かる。知覚確率は,ある周波数において加速度を大きくしていき,揺れを感じた時点での割合であること9),一方,アンケート回答者は全周波数成分の応答加速度を感じていることが考えられる。また,6段階評価の中から一つを選ぶという,手法の違いに起因していることも理由として考えられるが,断言はできない。また,Fig.7より応答加速度が3~4cm/s2を境として「感じない」と答えた人以外の割合は100%に達していることがわかる。これより,今回のアンケート調査の結果からは,歩行振動に対する床の設計目標(仮)として,応答加速度の値3~4cm/s2が一つの目安になると考えられる。文献10)によれば,「標準ランク」として住宅の場合V-50~V-80(知覚確率で50~80%)程度,学校の場合V-60~V-85(知覚確率で60~85%)程度が提案されている。第1報によれば,床の1次固有振動数の実測値は9.5~12.5Hzであることから,1/3オクターブバンド分析における中心周波数が10Hzあるいは12.5HzでV-50~V85に相当する応答加速度を求めると,2.5~6.5cm/s2となる。また,文献11,12)によれば,構造設計者の観点からとらえた「標準ランク」はV-60~V80(知覚確率で60~80%)であり,上記と同様に応答加速度を算出すれば3.0~5.6cm/s2となる。これらの応答加速度の値は,上述した3~4cm/s2に近いことがわかる。以上より,本報での歩行振動に対する床の設計目標(仮)は,床の1次固有振動数9.5~12.5Hzの範囲で応答加速度3~4cm/s2とした。

 

5.2鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルによる床の評価
5.1では床の設計目標(仮)を,床の1次固有振動数9.5~12.5Hzの範囲で応答加速度3~4cm/s2としたが,人間の感覚には周波数依存性が存在する8ことが分かっているので,人間の感覚に基づいて補正した加速度を設計目標(仮)とすべきであろう。そこで以降は,JISC151013に示される鉛直特性で重みづけした加速度レベル(本論文では,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベル,と称している)を用いて考察を行う。本報では4.で示したように,片道の歩行について,加速度計ごとに時定数10msで1/3オクターブバンド分析を行い,1/3オクターブバンド中心周波数ごとの補正値を加味し,その最大値をVLmaxとした。VLmaxは1/3オクターブバンド中心周波数が10Hzもしくは12.5Hzで生じていた。すべての片道歩行のVLmaxの平均値をVLavとする。
まず,VLavと「気になり尺度」および「我慢尺度」の1)または2)または3)と答えた人の和の割合(以降,1)+2)+3)の割合と略)の関係について,Fig.8に示した。応答加速度が同じ場合,「我慢尺度」の1)+2)+3)の割合は,「気になり尺度」の1)+2)+3)の割合よりも大きく,「我慢尺度」の方が振動を許容する人の割合が多いことがわかる。また,VLavが65dBを下回ると,「気になり尺度」および「我慢尺度」の1)+2)+3)の割合が,65%以上となることがわかる。ここで,周波数を勘案してVLavの値65dBをAravに換算すると2.3~3.6cm/s2となることから,上述した床の応答加速度の設計目標(仮)である3~4cm/s2に近いことも分かる。
これまでアンケート調査の集計結果と床の応答加速度の関係を見るために,解析する加速度としては,歩行時の動線から少し離れた加速度の値を取り上げてきた。しかし,床の応答加速度としては,歩行時の動線上に近い加速度の方が大きく,その値から算出したVLindを床の居住性能の評価の指標とすべきである。歩行時のVLavの最大値をVLindとし,VLavとの関係をFig.9に示した。先述した木造大スパン床の設計目標(仮)であるVLavが65dBの場合,床の指標VLindは約70dBとなり,Fig.8より1)+2)+3)の割合は40%を下回ることになる。これより,本報での木造大スパン床の設計目標(仮)を,床の1次固有振動数9.5~12.5Hzの範囲で床のVLindの最大値として65dBとする。

5.3鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルとたわみに対するスパンの比との関係
床の設計は,現状ではたわみ制限に基づいて行われ,建築基準法には初期たわみと変形増大係数を考慮したたわみが規定されており14,木質構造設計規準(木規準と略)には初期たわみとクリープ変形係数を考慮したたわみが規定されている15。そこで,第1報で求めた建物の梁または平行弦トラスの剛性の実測値から,変形増大係数あるいはクリープ変形係数を考慮してたわみを算出し,そのたわみに対するスパンの比とVLindの関係をFig.10に示した。ただし,同図にはEおよびF事務所の値についてはプロットしていない。その理由を次に示す。
E事務所の場合,上述したとおりOAフロアが施工されていたことにより減衰定数が求められなかったことから,OAフロアは局所的に振動していることが考えられた。それを確かめるために次のような解析を行った。Fig.11にE事務所をW4歩行したときの,加速度計P1の加速度波形を示す。この加速度波形を,加速度計P1の近接箇所を歩行した部分(R2)と,その前を歩行した部分(R1),その後を歩行した部分(R3)の3つに分け,1/3オクターブバンド分析を行い,バンドごとの応答加速度を算出し,その中の最大値MA(Ri)(i=1,2,3)を求めた。A,CおよびD小学校では梁上を歩行したW1歩行,B小学校では梁間を歩行したW3歩行,F事務所ではE事務所と同様W4歩行した場合の加速度計P1の波形について解析を行った。さらに,MA(R1)に対するMA(Ri)(i=1,2,3)の比の値MA(R1)/MA(R1)=r1=1,MA(R2)/MA(R1)=r2およびMA(R3)/MA(R1)=r3を,例えば3往復の場合は往復あわせて計6回の平均値を求め,R1,R2,R3に対してプロットした。その結果をFig.12に示す。この図をみると,A,C,D小学校とE,F事務所の傾向が異なっていることがわかる。小学校の場合,梁上を歩行しており,振動が梁を通じてP1に伝播しているのではないかと考えられる。B小学校では梁間を歩行しているが,梁上を歩行した他の小学校と同様の傾向がうかがえる。一方,E事務所ではOAフロアが局所的に振動しているため,R1やR3における振動がR2に伝播しにくかったこと,R1やR3では逆にその部分のOAフロアが主として振動していると考えられる。また,F事務所では,シンダーコンクリートを打設しているため,床が版として一体的に振動しており,第1報で示したように剛性がかなり高く,E事務所と同様にR1やR3における振動がR2に伝播しにくかったこと,R1やR3ではその部分のみが主として振動していると考えられる。本研究では,固定荷重や積載荷重は梁に加わるとして梁の設計を行うことを考えているため,E事務所のように局所的に振動する床や,F事務所のように版として一体的に振動する床は除くことにした。
Fig.10から,先述した設計目標(仮)である床のVLindが65dBとなるためには,スパンに対するたわみの比を建築基準法で約1/500,木規準で約1/600とすればよいことが分かる。したがって,小学校の4棟に基づく提案ではあるが,本研究では,変形増大係数あるいはクリープ変形係数を考慮した梁のスパンに対するたわみの比の設計目標(仮)を,建築基準法で1/500,木規準で1/600とする。ただし,床の1次固有振動数は9.5~12.5Hzの範囲とする。

5.4鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルと床の固有振動数との関係
VLindと床の1次固有振動数との関係をFig.13に示した。Fig.11と同様に,事務所2棟についてはプロットしておらず,小学校4棟のみのプロットである。同図を見ると,C小学校およびD小学校における12.1Hzおよび12.5Hzの割にVLindの値が大きいが,それを除くと設計目標(仮)である65dBを下回るには,1次の固有振動数が9.5~12.5Hzという狭い範囲内であるものの,12Hz以上であることが必要と考えられる。また,Fig.14にたわみに対するスパンの比と固有振動数との関係を示す。この図からも,スパンに対するたわみの比を建築基準法で約1/500,木規準で約1/600とすると,固有振動数が12Hzとなることがわかる。

 

6.結論
人間が生活や仕事などの活動をするうえで必要不可欠な動作である歩行を加振源とする床の鉛直振動と感覚評価との関係の検討を行い,床の応答加速度と知覚確率,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルとアンケート調査結果および第1報で算出した床のたわみ,固有振動数との関係を調べた。床の1次固有振動数が9.5~12.5Hzの範囲で,次のことがわかった。

1.同じ応答加速度に対し,知覚確率よりもアンケート調査による「感じる」と応えた人の割合の方が多かった。
2.床の応答加速度の値が3~4cm/s2を上回ると,アンケートで振動を「感じない」と答えた人以外の割合が100%,また,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルが65dBを下回ると,歩行振動を許容できる人の割合が65%以上となった。
3.鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルと,変形増大係数あるいはクリープ変形係数を考慮したスパンに対するたわみの比との関係および1次の固有振動数との関係から,鉛直方向の周波数重み付け加速度レベルが65dBを下回るには,建築基準法で1/500,木規準で1/600とすること,および,1次の固有振動数を12Hzとすることが有効である。以上のように,本研究では歩行振動に対する木造大スパン床の設計目標を提案できる可能性が示された。床の周波数重み付け加速度レベルの設計目標(仮)を65dBとすれば,それを達成するためには,たわみの設計目標(仮)を,変形増大係数あるいはクリープ変形係数を考慮したスパンに対するたわみの比を建築基準法で1/500,木規準で1/600とし,1次の固有振動数の設計目標(仮)を12Hzとすればよい。ただし,床の1次固有振動数は9.5~12.5Hzの範囲とする。

 

謝辞
実験およびデータ解析にご協力いただいた日本建築学会「木質構造の振動障害に関する小委員会」の委員の方々,試験建物の使用にご尽力いただいた方々に厚く御礼申し上げます。

 

文献
1)杉本健一,中村昇,藤野栄一,佐野泰之,新藤智,鎌田貴久,宇京斉一郎,権田将也:木造校舎および事務所の床の鉛直荷重に対する性能と歩行振動に対する感覚評価との関係(第1報)木造大スパン床の静的および振動性状.木材学会誌62(4),101-107(2016).
2)例えば,横山裕,井上竜太,池田文乃,八木豊:歩行により発生する周期的および連続的な床振動の評価指標.日本建築学会環境系論文集74(636),125-132(2009).
3)例えば,冨田隆太,井上勝夫:人の動作時を対象とした居住床の振動性能評価に関する基礎的検討.日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),環境工学Ⅰ,2009,pp.215-216.
4)横山裕:複数歩連続した歩行振動の性能値に関する基礎的検討木造大スパン床の歩行振動の居住性からみた評価方法(その1).日本建築学会環境系論文集78(691),689-695(2013).
5)横山裕,黒田瑛一,福田眞太郎:剛性の高い床に適用する性能値に関する基礎的検討木造大スパン床の歩行振動の居住性からみた評価方法(その2).日本建築学会環境系論文集80(712),509-517(2015).
6)西谷伸介,守時秀明,黒田瑛一,横山裕:振動障害のない木造大スパン床の設計方法の検討在来軸組構法大スパン床の歩行振動の評価と固有振動数および剛性の関係.日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),環境工学Ⅰ,2015,pp.359-400.
7)日本建築学会:3.居住性能評価の基準.“建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説(第二版)”,丸善,東京,2004,pp.6-11.
8)後藤剛史,濱本卓司:3.2平衡感覚器官.“わかりやすい環境振動の知識”,鹿島出版会,東京,2013,pp.43-44.
9)石川孝重,野田千津子:鉛直振動に対する知覚閾および感覚評価に関する実験的研究.日本建築学会環境系論文集588,9-14(2005).
10)野田千津子,石川孝重:床振動に対する居住者意識に基づいた性能ランクの設定に関する研究.日本建築学会環境系論文集638,435-441(2009).
11)片岡達也,石川孝重:環境振動の目標性能設定に関する構造設計者のデルファイ法による評価─その1設計時を想定した設計者の事前アンケート調査─.日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),環境工学Ⅰ,2010,pp.361-362.
12)小泉達也,石川孝重:環境振動の目標性能設定に関する構造設計者のデルファイ法による評価─その2意見集約によって得られた設計者のグレード視点─.日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),環境工学Ⅰ,2010,pp.363-364.
13)JISC1510:振動レベル計.日本規格協会(1995).
14)建設物の使用上の支障が起こらないことを確かめる必要がある場合及びその確認方法を定める件,平成12年建設省告示第1459号(2000)(最終改正:平成19年5月18日国土交通省告示第621号).15)日本建築学会:504.2曲げ材の所要剛性.“木質構造設計規準・同解説─許容応力度・許容耐力設計法─”,丸善,東京,2006,pp.180-188