木と香り

現在香料として利用されている、海外の樹木をピックアップしました。
葉から香料のとれるもの
ユーカリ油 Eucalyptus Oil
ふともも科に属するユーカリ属の植物は、濠州原産の常緑喬木で種類が非常に多く、いづれもその葉の水蒸気蒸溜により精油がえられる。成分的にも多種にわたるが、ユーカリ油と一般に称するものはシネオールを主成分(70%以上)とするもので、薬用、口中剤、歯磨、消毒殺菌剤などに用いられ、年間1,000トン以上生産され十指に入る精油である。濠州が全世界の60%を産し、そこでの植物はEucalyptus polybractea, E.smithii, E.leucoxylonが多く、ブラジルのものはE.globulus、コンゴーのものはE.smithiiといわれる。 シネオール以外のものを主成分とするものにE.citriodoraの葉からの精油があり、年間100トン級の油で、プラジル、アフリカ、中米などに栽培されている。主成分は(±)-シトロネラール(65~85%)である。またE.dives”type”は(-)-ピペリトンを40~50%含む精油を産し濠州、アフリカで生産されている。


カシア油 Cassia Oil
カシア樹は、くすのき科のCinnamomum cassiaで、葉、小枝、樹皮の廃物などの水煮蒸溜によってカシア油がえられる。中国の南東部が主産地でベトナムやインドも産出する。油の主成分はシンナミックアルデヒド(85%)で食品、菓子、飲料などのフレーバーとして珍重され、年間200トン前後の生産と推定されるが詳細は不明である。

ゼラニウム油 Geranium Oil
市場に出ているゼラニウム油はゼラニウム属の植物から全く採取されておらず、ふろうそう科のぺラルゴニウム属の植物Pelargonium graveolensその他の亜種で茎の高さ約1米の亜潅木の葉および小茎の水蒸気蒸留によるが、採油率は極めて低い。油の成分はゲラニオール、シトロネロールなど複雑で、シトロネロールは左旋性で優劣を決するといわれ、単離されてロジノールとして市販されている。ブルボンゼラニウム油と称せられるレユニオン島産が過半を占め、アルゼリア、モロッコ、コンゴーなどが主産地になりつつある。この植物は余り高温にならない亜熱帯気候下に最も良く繁茂し、レユニオン島では過湿、過乾のない山岳斜面高地に栽培されている。年間100~150トン級の製油であるが、強力な花香調を有し高級香料の調合に多用されている。

プチグレン油 Petitgrain Oil
地中海沿岸に産するみかん科のビッターオレンジ樹Citrus aurantium amaraの葉と小枝の水蒸気蒸留によって油がえられるが、パラグアイ産が量的に最重要である。パラグアイにはスペインから導入された野生または栽培の形で大量に成育しているが、製油の大半は栽培されたものよりえられており、100~300トン級の年産である。主成分はリナロール、酢酸リナロールで、フランス産より劣るため香水原料としてより化粧品用特に石鹸香料に用いられる。 樹幹、木部から香料のとれるもの くすのき科の植物が大半でボアドローズ、オコチア、白檀など重要なものが多い。

ボアドローズ油 Bois de Rose Oil
くすのき科のAniba rosaeodoraを中心に数種のものがあり、中位の常緑樹で南米に野生しており、アマゾン流域原産である。樹幹を細片にして水蒸気蒸留するとリナロールを主成分(70%以上)とする精油がえられ、ブラジル、ペルー、ギアナで集められている。ブラジルでは一時、年産600トンに達したが、現在では250トン程度といわれる。ペルー油はブラジル油に比し劣り価格も安い。ギアナ産はカイエンヌ油とよばれ極少量である。十数年前は世界の十五指に入っていたが、他のリナロール含有製油が合成リナロールの台頭で苦しい立場にある。ローズウッド油ともいわれ、そのまま化粧品、石鹸用に、またリナロール、酢酸リナロールの原料となる。

芳油(ホウユ) Ho Oil
台湾、中国に成育するくすのきの一品種で芳樟木Cinnamomum camphora var. glaucescensの幹(枝と根を含む)を水蒸気蒸留すると(-)-リナロール(75~90%)を主成分とする芳油がえられ、戦前台湾では年間300トン生産されていたが、現在はその10%以下に衰退している。ホーウッドオイルともよばれ、調合香料(特に石鹸用)や酢酸リナロールの製造原料として利用されている。

オコチア油 Ocotea Oil
くすのき科の植物Ocotea pretiosa (=O.cymbarum)で、ブラジル、パラグアイ、コロンビアなど南米各地に野生する喬木の幹を細片として水蒸気蒸留するとサフロールを90%以上含有する精油を与え、ブラジルサッサフラスともいわれる。1938年初登場の新製油で歴史は浅いが、年産1,000トンのオーダーに達している。日本や台湾の樟脳油の衰退により、世界のサフロールはオコチアに依存しており、ヘリオトロピン、農薬、医薬などの合成原料になる他、防虫防臭剤、洗剤、ワックスの付香に利用される。

樟脳油 Camphor Oil
くすのき科のCinnamomum comphora なる常緑喬木で高さ50米にも達し、樹幹、枝、根を細片して水蒸気蒸留すると樟脳原油がえられ、更に処理されて、樟脳50%、白油20%(主成分シネオール)、赤油22%(主成分サフロール)に分けられる。樟脳はセルロイド原料、防虫用、ボルネオール製造原料であるが、天然樟脳は合成品に全く置き変ったので我国での天然樟脳関連事業はほとんど姿を消し、中国、海南島、台湾で僅かに余命を保っているにすぎない。

サンダルウッド油 Sandalwood Oil
サンダルウッドは白檀ともよばれ、400年の昔から知られた高貴な香木で、原産地はインドでマイソール州が現在の主産地である。つくばねのき科のSantalum albumで6~10米に達する大木で幹、根の水蒸気蒸留によって精油をとる。製油には樹齢30年以上のものを細片とし、更に粉砕し水に浸して蒸留するが、油の比重が重いので技術を要する。この油はセスキテルペンアルコールの一種サンタロール90%以上を含む保留性の強い特殊な東洋的香気を有し、石鹸香料、一般香料調合用として年間150トン以上(80%前後はインド産)消費され、材は香木として彫刻、細工物にまた薫香や防虫用に用いられる。

花から香料のとれる植物
イランイラン油 Ylang-Ylang Oil および カナンガ油 Cananga Oil
“イランイラン”はマレー語で”花の中の花”と云う意味で、ばんれいし科の植物Cananga odorata forma genuinaで熱帯気候下肥沃な火山灰性または砂質の土壌に繁茂する。自生させれば15~20米に達するが花を摘むに便利な様に2~3米の高さに頭をつめる。モルッカ諸島の原産だが現在はコモロ、ノシベでその花の水蒸気蒸留が行われイランイラン油年産50トンの約80%を生産している。製油はジャスミン様の香気をもち価格が安いので”貧乏人のジャスミン”なる別名もあるが非常に多成分で、リナロール、ゲラニオール、クレジメチルエーテル、ベンジルアルコールなど複雑で高級香料調合に用いられる。 一方、ジャワのカナンガ油は同種の植物C.odorata forma macrophyllaよりえられるが、花も葉もイランイランより大型で精油もかなり劣る。カナンガ油は年産20トンで保留性が良く、イランイラン油と異なり石鹸に対して安定なため石鹸、男性用化粧品に多用される。カナンガ油はジャワでほとんど野生に近い状態で花から原始的蒸留法で採取され、イランイラン油は植林と精巧な蒸留によってえられ、成分的にほとんど同じ精油でありながら両者の品質はかなり異ったものである。

クローブ油
ふともも科のEugenia caryophylataで中位の大きさの常緑喬木で経済樹令は60年と長い。モルッカ諸島原産だが、今日ではアフリカ東海岸のザンジバル島とペムバ島(両島で全世界の80%)が中心となり、マダガスカル、コモロなどがこれに続く。適地は排水可良の砂質または赤色壌土で適当な保水能を存する場所である。開花前のつぼみをとり、乾燥したものがクローブ(丁子(チョウジ))で、世界の丁子の年産量は約3万トンといわれる。昔から食品、薬用に供せられ一部は蒸留採油される。蒸留は粉砕した丁子に水を加えて加熱蒸留され、70~90%のオイゲノールを含む精油がえられ(採油率17~20%と高い)、年産500トン級の精油である。 一方、つぼみをとった後の茎の部分から、クローブステム油が葉および小枝からクローブ葉油がえられ、前者はザンジバルで後者はマダガスカルで蒸留されており、いづれもオイゲノールが主成分である。古くはオイゲノールはワニリンの合成原料であったが、最近はリグニンに席をゆずり合成原料としてより天然精油として利用されている。クローブ葉油の年産量は約1,000トンの莫大量でステム油は200トン級である。

木皮および根から香料のとれるもの
桂皮油 Cinnamon Bark Oil
本植物は、くすのき科のCinnamomum zeylanicumでセイロンが主産地で、インド、ビルマなどにも成育する10~15米の喬木であるが潅木仕立てにして、小枝の内皮を乾燥し原料とする。水蒸気蒸留により採油されるが、主に桂皮として輸出され、輸入先でそのまま消費されるか、採油されるのが普通である。精油の主成分はシンナミックアルデヒド(最高75%)で、カシア油と異なるのはオイゲノールを4~10%含むことである。食品、菓子、薬、飲料(コーラタイプ)、口中剤用フレーバーとして用いられているが、正確な年産量は不明である。本樹の葉を水蒸気蒸留すると桂葉油Cinnamon Leaf Oilがえられるが、80~90%のオイゲノールを含むため桂皮採取の副業としてセイロンその他で採油され、クローブ油と競合している。

果皮または果実から香料のとれるもの
ライム油 Lime Oil
ミカン科のCitrus aurantifoliaでメキシコ、西インド諸島、東アフリカなどに栽培されている。メキシカンライムとかウエストインディアンライムとか酸味の強いものが使われ、未熟の果皮を圧搾してえられる精油(西インド諸島で行われ、高価でExpressed Lime Oilといわれる)と全果実をプレスしてえられるライムジュースから水蒸気蒸留でえられる精油(Distilled dime oil)とがあり、後者が主で年産500トンと推定される。油の主成分は大部分リモネンで、飲料等にコーラ型飲料のフレーバー、化粧水の香料として用いられる。

大茴香油(ダイウイキョウユ) Star Anis Oil
もくれん科のIllicium verumで、ベトナムや中国の広西省に自生または栽培される喬木で、その新鮮な青果を水蒸気蒸留するとアネトール(85~90%)を主成分とする精油がえられ、歯磨、菓子、薬、飼料用フレーバーとして使用される。 分泌物から香料のとれるもの 正常な植物体では生成されず樹皮などの傷口より流出する病理的生産物である。傷口より産する乳状のラテックスは空気と日光にされられると酸化などにより固化し、固くこわれ易い樹脂となり香料として使用される。

ベンゾイン Benzoin
えごのき科の樹でシャムベンゾインとスマトラベンゾインの二つが重要で、前者はStyrax tonkinensisなる小樹で、インドシナ原産である。主成分はベンゾエート類で高価である。後者はStyrax benzoinでスマトラおよびマラヤに広く成育し、シンナメート類が主成分で安価である。両者とも樹皮の傷口より生ずる樹脂をとり有機溶剤で抽出し、溶剤を蒸散せしめレジノイドの形で香料調合、特に石鹸香料の保留効果をますために非常に広く用いられている。 香辛料として利用されるもの 丁子や桂皮は精油源として重要であるが、種子や葉などをそのまま乾燥粉末として調味料または香辛料(スパイス)として利用される量が莫大である。これら香辛料は一般に苦味、辛味と同時に強い芳香を有し、肉製品、ソース、カレー粉などに繁用されている。昭和44年我国の香辛料輸入量は、胡椒が最も多く2,360トン、桂皮1,330トン、しょうが430トン、肉づく160トン、丁子130トン、ワニラ豆20トン、その他合計2,200トンと報告されている。
胡椒 Pepper
胡椒科のPiper nigrumで多年生つる性潅木である。紀元前より知られており、肉食には不可欠で新大陸発見の端緒をなしたものといわれる。主産地はインド西南のマラバールであるが、現在はこの他インドネシヤ、マレーシヤ、ブラジルなどに栽培されている。ブラジルでは三十数年前日本の入植者によってアマゾン流域に始められたものである。未熟の実を乾燥したものが黒胡椒で、完熟した実を水に浸し、外皮をむいて乾燥したものが白胡椒である。黒胡椒は水蒸気蒸留するとペッパー油がえられるが余り需要がない。胡椒の辛味成分はピペリンおよびその異体性シヤビシンで水蒸気蒸留されてないので、溶剤抽出してオレオレジンとして使われる場合も多い。胡椒の世界年産量は約8万トンといわれ最大の香辛料である。肉製品、缶詰製品、ハム、ソーセージ、漬物など辛味が要求される場合に広く用いられている。 肉づくまたはナッツメグ Nutmeg にくづく科のMyristica fragransなる常緑樹の種子で重要な香辛料の一つで、年間一万トンの生産と推定される。モルッカ群島の原産で現在ではインドネシヤ、西インド諸島に栽培され、特に西インドのグレナダ島は世界の40%を輸出している。一部粉砕されて水蒸気蒸留され精油がとれ(60トン/年)食品、菓子用香料として使われるが、大部分がこのまま粉砕して香辛料として肉製品、ソースに用いられる。

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